君が笑うと、僕は幸福だ。いつだって、あっけない程に、容易く。




 環境が変わって、新しい友達ができて、僕はたぶん笑っていることが多くなった。ほとんど泣いた記憶がない。
 小さな頃から当たり前のように一緒にいた、いつだって手を伸ばしていてくれた、君と離れてから知ったことがいくつもある。

 名前を、最近は呼ばなくなった。口にすればまるで縋るように響いた。幼かった僕はいつも君を頼っていた。
 本当はもっと、ずっと。思うだけで目眩がした。

 幸福だったのだろうと思う。間違え様もなく、あれらの日々は輝かしいものだった。戻りたいのだろうかと考えて、いつも結論は出ない。ただ、君に会いたかった。


 耳鳴りのするような沈黙の世界で、僕は君に銃を向ける。

「どうして……!」

 遠くで爆破された何かの光だけが時折視界を掠める。あとは押し潰されそうに圧倒的な暗闇。
 繋がれた回線越しに、何度も問い掛けてくれた、強い口調はどこか悲しげな響きを纏っている。
 握り潰す強さで、肺の奥が軋んだ。
 手を、離せば死んでしまう人たちがいる。守れるだけの力を持っている。
 そのことが、こんなにも、重い。
 そうして君を傷つけるだけの僕が、存在することに何の意味があるだろう。
 他人事のように頭の片隅で思った。


 僕は立ち尽くしている。誰といてもひとりきりでしかいられない。ここには君がいない。僕の世界に、もう君はいない。
 戻れないのだと思った。あの頃のように無邪気なままではあれない。僕は、もう銃を撃ってしまったのだから。

 会いたいよ。

 言葉にはできなくて涙が出た。本当に、君が僕を殺してくれたらいい。




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