目まぐるしく移り変わる戦況に、スクリーンから目を逸らさないまま、ラクスは無意識に手を握りしめていた。連合がプラントへと向けて放った核は、キラとアスランの駆る機体が阻んだけれど、それに対抗するようにプラントの撃ったジェネシスの閃光は、多くの艦隊やMS、連合の兵士達の命と共に、月を、そこに住む民間人までもを道連れに捉えた。そして今、ラクスの必死の呼びかけに応えることもなく命を散らしていく両軍の中を、終わらせるために、キラとアスラン、それに今やオーブの象徴であるカガリまでもが出撃して行った。
 戦況は、すでにザフトに傾いている。それは誰の目にも明らかだろう。コーディネイターにとってのこの戦争の根源、戦わなければ守れないものがあるから、という言葉に従えば、とうに戦う理由はないはずだ。連合軍の上層部がナチュラルの全滅をも辞さないほどに愚かでなければ、停戦を、それも決してコーディネイターにとって不条理なものではない条件で行うことができるだろう。けれども換装を終えたジェネシスは、その威力をすでに二度目の当たりにしているにも関わらず、地球の大地に向かって再びその閃光を放とうとしている。
 この艦を狙って集中攻撃を加えてきたザフトの新型の機体は、それを庇うように阻んだフリーダム、キラへと標的を変え、共にジェネシスの方角へと遠ざかった。アスランとカガリも、ジェネシスを止めるために、そしておそらくアスランは、ナチュラルとの徹底交戦を叫び独裁の体を示し始めた父親を、殺してでも止めるために、ジェネシスへ向かった。
 ラクスは、自らの意志で、密かに募ってきた同志達と共に戦場に赴くことを選んだ。元最高評議会議長である父クラインの名、プラントの歌姫という肩書きを最大限に利用して、人々に呼びかけ、Nジャマーの搭載されたフリーダムを軍から奪ってそれを扱うべき相応しい人、キラに託したのも、すべては、望んだ世界のためだ。それだけの命を背負う、覚悟はとうにできている。武力蜂起したことの責任を、軍へ、プラントへの反逆とも取れない行為を、それによって喪われた命を、矢面に立ち、受け止める。そのためにたとえ処刑されようとも、後悔はない。無力を、思うことに意味はないと、知っているのに。
 ともすれば、その名を呟きそうになる自分がいる。縋るように響かせたくはないのに、まるで不安に震える声で。誰よりもその存在を望みながら、それでも望む世界のためにならその命ですら犠牲にする覚悟のある自分が。祈るように。ただひたすらに、その無事だけを願って。
 アスランのくれた、ピンク色をしたハロは、膝の上でおとなしい。かつての、見せかけの平和の中、それでも、例え作り物のものであっても、笑顔でいることのできた日々の象徴のようなものだと、本来指揮官が座すべきその椅子に座りながら、ふとラクスは思う。彼が携えていた小さな鳥も、同じだろうか。あのロボットの小鳥について話したときの、キラの眼差しを不意に思い出し、指先は震えた。握りしめる、今ラクスができることは、為すべきことは、この場所で、指揮官たる象徴として、在ることであったから。
 けれど通信機からもたらされる報告に、次々と指示を出していたバルトフェルドの声が止まる。
 唐突にスクリーンを白く染め上げた光景に、聞こえるはずもない爆音に、戦闘配備中は決して離れることのなかったその席から駆けるようにしてスクリーンへと縋ったのは意識してのことではなく。
 だから、ラクスが悲鳴のように口にしたのは、ただ。




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