子供じみた、たわいない話をしていた。殊更にだ。アスランはわかっていて気づかないふりをする。幼馴染なんて言葉はひどく簡単だ。まるで単純だ。
 唐突に落ちた沈黙に、アスランは何気ない素振りでキラを見る。窓の外、沈みゆく太陽にキラは少しだけ目を細め、ひどく穏やかなまなざしをする。そっと視線をはずし、俯くようにしたが、網膜には焼きついた。横顔は眩しかった。名を口にしようとして躊躇われ、わかりやすい感情には自嘲を誘った。
 沈黙は、と、アスランは考える。こんなときに訪れる沈黙は、ひどく残酷だ。かつてならば意識せずにいられただろう。キラは、きっと今もそうだ。二人の間柄に差異ができたわけではない。ただ、自分のキラに向ける感情が、変わってしまった。それを無理に隠そうとして、かえって耐えがたく意識される。けれどもそれらを打破できるほど、豪胆ではないのだ。ひどく小心だ。
 もしも、この沈黙をきっかけにしてしまえるだけの強引さがあるならば。どうすれば良いだろう?アスランは考えて緊張して震えかけた息を吐いた。ああ、もしも、きっかけに。きっかけになるならば。もう一度息を吐いて、それから止めた。
 1メートルに満たない距離を手を伸ばす。無防備な左手に震える右手を重ね合わせる。緊張したせいで、少し汗ばんでいるかも知れない。キラはいまだ幼い頃の面影を残した、あどけない表情をアスランへ向ける。驚いたように開かれた瞳は、けれどどこまでもアスランに優しい。息をとめたのがその近さでわかる。指の間に、指を。掌と掌の間の空気を押しつぶして埋めるように合わせた。
(…ああ)
 近くなった距離に、キラはただ目を細める。その目は少し揺れて唇は細い息を吐いた。キラの目は夕方の日差しに射されて薄い。アスランはそれを見つめた。
(おれはなんて)
 キラの指先が小さく震えたのが繋いだ手から伝わった。無理矢理繋いだ体勢は少し苦しい。けれども、もうごまかしなどきかないことをおのずと知った。
(…おれは、なんてキラが)
 顔を傾ける。キラはまだどこかさびしそうな顔のままだ。それでもそんな顔のまま、触れるまで近づいたアスランの顔に目を閉じた。
(なんて好きなんだろう)
 触れた唇から息が通じて、胸は絞られた。喉は大仰に上下する。表現のつもりなのか抗議なのだか、繋いだ手をキラが強く握ったので手は痛んだ。くちづけたままアスランは少し微笑んだ。
(…ああ)




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