「ルナマリア」 轟音が過ぎる、射撃場の片隅にいた。軍服のまま、耳当てもつけずに目前にある標的だけを見据えている。距離はある。背後からのものであっても、けれど声が届いていることは知っていた。彼女は優秀だ。とても。いつか必要とされるときのために、能力を伸ばすことに貪欲で、躊躇いがない。 「なに?」 振り返らずに狙いを定めたまま。もっともリスクの少ないとされる姿勢をとる、腕に腕をそえて、構える。次には確かな銃声が耳を掠めた。新造艦ミネルバの、少なくとも訓練設備に関する不満の声は出ないだろう。 「あまり無理な撃ち方をするな」 もう一度。遮るように撃ってようやく振り返る。 「そんなこと言いに来たの?」 責めるような瞳で、すぐに視線をずらす。唇を噛み締める。 「違う、やつあたりだわ。…ダメね。かっこ悪いったら」 きつく目蓋を引き下ろし、開かせる。そうしていつも、強いまなざしをした。 「だいじょうぶ。心配しないで。引き摺ったりしないわ」 自嘲は隠そうともせずに、ただ前だけを見据えようとする。 「わかっているなら、休め」 フォーメーションを組んで出た、二人が死んだのだと聞いた。この艦のパイロットは誰もこれが初の実戦になる。慣れていくしかないことだとしても、残らないはずもない。それが不可抗力の理由であるとしても、この艦の抱え込んでしまった闖入者のせいで後を追うこともできない今の状況であるなら、尚更。 「レイ、」 けれど向けるべき言葉もまた多くはない。背を向けて数歩を歩いてから声は呼んだ。 「心配してくれて、ありがとね」 見なくともわかるような笑顔で。だから振り返らないままに部屋を出る。 互いに。次には、何事もなかったような素振りで会えると知っていた。 |