雪の降った日。夜。空からを、降り積もる色を見ていた。
ちらちらと落ちる。薄い結晶の形をして、けれど伸ばした手のひらに触れることはない。
綺麗な色。吐く息までも白く。全部、わたしも、凍らせて。
暗い空を見上げて、ずっと。そうしているつもりだったのに。

「…雪がすきなの?」

かけられた声。知らない声が。

「でも、そのままじゃ風邪ひくよ」

差し出された傘にまばたいた。静かな声で。頭上を遮って、差し掛けたまま。
見返せば少しだけ、目元が緩んだようにも見え。
風邪ひくなよ。あの人にかけられた言葉を思い出す。

手を伸ばせばすぐに、手は離された。一瞬だけ触れて。微笑みと、雪を踏む靴は沈んだ音を立てる。


雪が降り頻る。重く白く。夜。
それは、ほんの僅かの隙間。




モノカキさんに30のお題 / 09.冷たい手
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