オーブからプラントへ、宇宙を越えて送り届けられたには不似合いな程の小振りな包み。ごく一般的な正規のルートを通ったもので、内容を改められた検閲済みの印が押されている。差出人はカガリ・ユラ。人目に触れる箇所は流れるような筆跡で、中のメッセージとはいくらかの落差があった。
 耳障りのいい言葉でばかり飾られていた、すぐそこにあるように、受け入れれば誰もが幸せになれるだろう未来を約していたDESTINY PLAN。失われた楽園の夢はだからこそ得がたく、美しく見えて残る。残された傷跡、混迷を深める地上でオーブは特別な立ち位置にあった。日々を過ぎた今でも、彼女のこなす執務の量は想像に難くない。相当急いで書いたのだろう内容は、他愛もなく家族や友人に送るような、短く親愛の込められたものだった。ラクスへの誕生祝いと、直接送るよりはキラづてのほうが早いだろうからと前置きをして、こちらを気遣う言葉が数言。ちゃんとしたプレゼントは今度会いに行く時に渡すからと、同封されていたのはオーブでは見慣れたパッケージのレモンキャンディーだった。
「これは、どういう意味かな……」
 酸味が強いけれども後味の爽やかさが特徴で、ファーストキスの味だとか、CMや可愛らしい包装自体でも使い古された文言を謳っている。ラクスが特別好んでいるとも聞いたことはないが、女の子同士通信で交し合っている内容には到底考えも及ばないから、こういったものにもそれなりの意味があるのかもしれない。多分、単なる思い付きとかではなくて。

「キラ?」
「――ラクス、カガリから荷物が届いたよ」
 声に振り向けば微笑んでむかえられる。菓子を手にして立っている姿にそっと頸を傾げられて、困ったように目を落としながら笑う。
「オーブのお菓子……?」
 キラは食べたことありますの。人工の重力も感じさせない軽やかさで、間近に薄紅の髪がふわりと揺れた。淡い空色のひとみを優しく細めて手元を見つめられる。
「小さい頃に、時々ね。酸っぱいのが苦手じゃないなら、おいしいと思うよ」
 秘密を告げるように声を落としてささやけば、ささやかに目元を緩められる。やわらかく頬の輪郭に落ちた髪を細い指が梳いた。
「懐かしい味ですのね」
「そんなに大層なものじゃないと思うけど……ファーストキスの味だしね」
「え?」
 あまりに聞き馴染んだフレーズだったので、ごまかすように口にした言葉へ不思議そうにまばたかれて、かえってうろたえてしまった。
「あの、……そういう、コンセプトなんだよ。幸せで胸の奥がしめつけられるみたいに、甘酸っぱい系等だと初恋の味とかね。プラントだと言わないのかな……」
「まあ」
 何故だか追い詰められたような気分で説明をする。由来を聞かれたらなんて言おう。さざめいた心中とは裏腹に、ラクスは胸の前で手を合わせた。
「それならわかりますわ。……わたくしにも」
 手の上へ重ねられる手のひら。白く細い、誰よりも華奢な指は優しく世界へ伸ばされている。あの戦渦の最中でも。傷つきながら、いつでも守るように寄り添って安らぎをくれた。
「いつも、キラといる時に感じる気持ちと同じですもの」
 肩へ顔を寄せられて、隠すように伏せられた頬へと手を伸ばす。こめかみへ滑らせて指を髪にとおした。いとおしむように触れて、確かな温もりを腕の中へ抱きしめる。

 傲慢なのは僕だって変わらない。傍にいられればそれだけで構わない。――守るなんて、声に出しては二度と言えないのに。それでもいいのだと君が笑うから。

 ふたりきりの時間が区切られるまでの短い間。目蓋を閉じる一瞬前に落とされた口唇に、こころからの笑顔が浮かんだようにおもえた。




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