私はひどい。私が死んであなたが悲しむことを知っている。それが、こんなにも幸福だ。


 爆風の中、視界だけはやけにはっきりしていた。頭はいろいろな記憶の断片と思考が絡まってはちぎれて離れ、混乱していた。
 二つ目の閃光はたがわず船を貫いた。あれだけ怯えていたのが嘘のように、心はひどく平静だった。自分は死ぬのだと、理解していた。あなたが必死で守ってくれたのに、その目の前で。コーディネイターとは違う、ナチュラルの私にはどれだけ願っても見えない距離だけれど、あなたの泣き顔があまりにはっきりと脳裏に浮かんで、笑いたくなった。
 吹き飛ばされ、覆われていく視界の中で、それでもこちらに向けて懸命に手を伸ばしている機体が見えていた。手の届く距離じゃなくてよかった。心から思う。爆発をするのは、あなたから遠く、できるかぎり遠くがいい。あなたがいない世界は苦しかった。生きているのは苦しかった。でも、あなたは生きている。だからそれだけで充分だ。

 私が死んだら、あなたはきっと激しく悲しむのだろう。あなたは人から隠れて涙を流す。薄い茶色の髪を乱して突っ伏し、凍えて割れそうな声で私の名を叫ぶだろう。聡明なあなたは知っている。幸せになれたかもしれなかった私の未来を思って嗚咽を上げる。
 優しいあなたは愛するもののために、守れなかった命に、殺さなければならなかった命に、そうして生きていかねば守れないことに涙を流した。けれどもきっと死んだ私のためだけにあなたは泣く。泣いてほしいわけではないのに、それがこんなにも私を幸福にする。あの涙がそのときばかりは私のものだ。他の誰のものでもない、私だけのものだ。

 あなたが笑えば心はさざめいた。互いにいつわりの掌だと、わかっていながら身震いさえした。穏やかに眠る振りをする私の横で、声を殺して泣くのにはかたくなに瞳を閉じた。そうしなければ、間違えてしまいそうだと思っていた。

 目を開く。見えない青空が広がった。あなたの笑顔。眩しかった。

 私はひどい。あなたは悲しむだろう。私は呪いながら死んでいく。あなたを涙させるものを。あなたを傷つけあなたの血を流させるものを。誰よりもあなたを苦しめた私自身を。

 私はもうあなたの目の中に映らなくていい。あなたの体に傷はいらない。あなたの心は綺麗なままでいい。

 目を閉じて息を吐くとまぶたは熱く唇は凍えて震えた。光にのみこまれていく中で、それでも私はひたすらに思う。届かない言葉を。

 私は、幸せだった。あなたに出会えて、幸せだったから。



 だから、どうか。




K×F 12 hours / 12.ただそれだけで
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